こんにちは。みゆきです。
今日は三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」を読んだ感想です。
2019年にドラマ化もされた作品だそうです。
読んでいる途中は、感情が結構忙しく動くのですが、読了後は心臓の周りにサーモンピンクのオーラを纏っているような、ほんわかと温かい気持ちになりました。
<あらすじ>
杉並の古い洋館、牧田家に暮らす四人の女性のお話。
主人公で刺繍作家の佐知、お嬢様気質な母の鶴代、佐知の人違いがきっかけで仲良くなった女性で、良くも悪くも印象に残りづらいことが特徴的な雪乃、雪乃の同僚でダメンズウォーカー気味の多恵美。
日常の小さな出来事の数々と、周りを囲む様々なキャラクター達との掛け合いで織りなす物語。
<私の好きなポイント3つ>
①多彩な表情のストーリー
読む箇所ごとにお話のジャンルが変わっていくように思えました。
最初はエッセイ風な印象を受けました。
4人の日々の暮らしを覗き見させてもらっているような感覚です。
食事の描写がまるで湯気と共に香りも漂ってきそうな書き方で、シンプルなレシピなのに読む時間によっては完全な飯テロになりそうです。
私は実際になりましたね。読み始めた日の夕食は、この物語につられて鍋にしました。
他に、ミステリーな一面や、読む人によっては若干のオカルト感、淡い恋のお話もあったりで、ワクワクが止まらない読書時間でした。
それと、30代後半の佐知と雪乃の目線で語られる、アラフォーならではの悲哀寄りの現状と考察も、同世代なので首肯するところが多かったです。
そして、4人それぞれの特徴や性格が、誰かの助けや救いに活きている様子が羨ましくも思えました。
なんだか、自分も4人と混ざって女子トークがしたい衝動に駆られました。
②4人を囲む愉快な仲間たち
4人もそれぞれ個性的ですが、周りもなかなかのキャラクターで楽しませてくれます。
まずは、同じ敷地内に住む山田老人。佐知の祖父の時代から牧田家に仕えてきたような立場の人。高倉健の大ファンで、自身も寡黙でありながら深い忠誠心に溢れた人間です。佐知にとっては、長年共にしてきた甘えや、もしかしたら自分の父かもしれない思いを捨てきれず、なんとなく邪険に扱ってしまう少しかわいそうな人間です。
佐知の気持ち、特に家族のような人間についつい出してしまう甘えは、私自身にも身に覚えがある感情で共感できます。同時に立ち上がる罪悪感がそうさせるのか、山田さんが出てくるたびに心臓がぎゅっと掴まれるような感覚になりました。最後は佐知との関係も雪解けを迎えたので、読んでるこちらもホッとしました。
佐知が主催する刺繍教室の生徒さんたちも、登場したのは一瞬でしたが「こういう人たちいるよね」と思わずにはいられないキャラクターでした。
普段は黙々と一人で刺繍を進めている人間たちがお稽古で集まると、同じ趣味の人たちと集まったのが嬉しくておしゃべりに花が咲く。でもよくよく聞いてみると、ただめいめいが好きに喋っているだけなのに、なんとなく会話が成立しているように見えるという場面も女子あるあるの一つではないでしょうか。
そして、忘れてはいけないのが、内装工事の梶さん。佐知の淡い恋のお相手。
梶さんとのやきもきするエピソードは、こちらもドキドキしてしまいました。
なんとなく自分で勝手に想像して物事を進めたり、本人ではなく周りの人間に突撃して結局すれ違ってしまったり。
きっと多くの人間がやらかしてきたであろう恋愛の失敗エピソードに、私も共感を覚えざるを得ませんでした。
そして、佐知が梶さんに淡い恋を覚えて(勝手に)玉砕するまでが1日で完了するところもとても面白かったです。
作品中では、美術館デートの約束を取り付けたところで終わってしまったので、その後をついつい想像したくなります。
③まさかのストーリーテラー
佐知の父とカラスです。
亡くなった佐知の父が成仏せずに牧田家を見守っているんですね。父目線での物語だったことが物語の終盤近くでわかります。
ちなみに父を地上に留める一役を買っているのは、このカラスです。
妻の鶴代とのエピソード部分だけ、照れくさいとの理由でカラスに代わります。
カラスも、牧田家の近所に存在した現在までのすべてのカラスの集合知という謎のキャラクターです。
幽霊とカラスの集合知という形がないものがお話を紡ぐ斬新な展開。面白すぎます。
そして、強盗と遭遇した佐知を助けるために河童のミイラに憑依するシーンは最高です。
想像したら面白いのはもちろんですが、最後に佐知が河童が父ではないかとふと思うところが、やっと名実ともに佐知の父になれた瞬間に思えてぐっと来ました。
一般的ではない家族の形でも、お互いに思いやる愛情。娘のように思っている人間に冷たい態度を取られても、自分の態度はブレずに淡々と、でもすぐ近くにいてくれる愛情。初対面の幽霊のお願いを、なんだかんだで叶える助けになって一緒に過ごす愛情。
形はさまざまだけど、誰かのことを思うことに溢れた作品だと思います。
佐知のように誰しもが、目に見えるもの、人、目には見えない何か、関係があるとは微塵も思っていない何かに、ふんわりと包まれて生きているのだといいなと思います。
“普段の日常に潜む様々な愛情の形〜あの家に暮らす四人の女を読んで〜” への1件のコメント
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